「誰に」損害賠償請求できるか
1 損害賠償責任
当法律(弁護士)事務所は、交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件を、専門的に取り扱っております。
そして、交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件において、被害者遺族に対して、損害賠償義務を負う場合の責任には、主に、「一般不法行為責任」と「運行供用者責任」があります。
2 一般不法行為責任
(1)加害者(運転者)
まず、交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件において、被害者遺族に対して、損害賠償義務を負うのは、交通事故を起こした加害者(運転者)になります。
(2)加害者(運転者)の過失の立証の必要
但し、加害者(運転者)が損害賠償義務を負うのは、加害者(運転者)に、交通事故を起こしたことについて、過失(落ち度)がある場合になります。
そして、交通事故加害者(運転者)に過失(落ち度)があったことの立証責任を負うのは、被害者とされています。
よって、被害者遺族が、これを立証できなければ、被害者遺族の損害賠償請求は、認められないことになります。
3 運行供用者責任
(1)運行供用者(通常は、運転者と所有者)
次に、交通事故の人身事故事件の場合、運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)も、被害者に対して、損害賠償義務を負います。
よって、交通事故の死亡事案の場合、運行供用者は、被害者遺族に対して、損害賠償義務を負います。
この点、運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)とは、判例上、運行支配と運行利益を有する者と解釈されており、通常は、自動車の運転者と所有者になります。
(2)過失の立証責任の転換
そして、運行供用者(通常は、運転者と所有者)は、交通事故を起こしたことについて、運転者の無過失の立証責任を負い、運転者の無過失を立証できない限り、損害賠償義務を免れることはできないという重い責任を課せられています。
これは、法が、交通事故の人身事故の被害者保護の観点から規定しているものです。
(3)運行供用者(通常は、運転者と所有者)に対する請求の重要性
このように、運行供用者責任の場合、立証責任が転換されています。
また、特に、死亡事案のように損害額が高額になる事案の場合、一般人には、被害者遺族の損害額全額を支払える資力がないのが通常ですので、加害者側が自動車保険(自賠責保険、任意保険)に加入しているか否かが重要なポイントになりますが、これに加入しているのは、通常、自動車の所有者です。
よって、運行供用者(通常は、運転者と所有者)に対する損害賠償請求は、必須であるといえます。
(4)運行供用者責任の問題点
なお、運行供用者責任の問題点(「誰が」運行供用者責任を負うか等)について、詳しく知りたい方は、「運行供用者責任」をご覧ください。
4 加害者(運転者)の刑事手続きの結果による影響
交通事故加害者(運転者)の過失の有無(立証)の問題は、加害者の刑事手続きの結果に影響を受けます。
詳しくは、「加害者の刑事手続きの結果が、民事の損害賠償請求に与える影響」をご覧ください。
5 その他の責任
交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件において、被害者遺族に対して、損害賠償義務を負う場合の責任には、その他に、使用者責任などがあります。
例えば、加害者(運転者)が、会社の社員として勤務中に、会社の車を運転して、交通死亡事故を起こした場合、会社も、使用者として、被害者遺族に対して、損害賠償義務を負います。
6 参照条文
〇民法709条(一般不法行為責任)
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
〇自動車損害賠償保障法(自賠法)3条(運行供用者責任)
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」
〇民法715条(使用者責任)
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」