死亡による逸失利益・生活費控除率

1 はじめに~交通事故の死亡事案

当法律(弁護士)事務所は、交通事故の死亡事案の被害者遺族の損害賠償請求(保険金請求)を、専門的に取り扱っております。

そして、交通事故の死亡事案の損害賠償請求(保険金請求)において、損害額が高額となる主な損害は、「死亡による逸失利益」と「死亡慰謝料」になります。

2 死亡による逸失利益

死亡による逸失利益(いっしつりえき)とは、被害者が、仮に、交通事故により死亡しなければ、得られたであろう利益のことをいいます。

そして、死亡による逸失利益は、裁判・弁護士基準では、以下のような計算式で計算されています。

「基礎収入額」×(1−生活費控除率)×「就労可能年数に対応する中間利息控除係数」

以下、「生活費控除率」の裁判・弁護士基準について、詳しく説明しますが、(1)まず、裁判・弁護士基準について説明し、(2)次に、「生活費控除率」の裁判・弁護士基準について説明します。

なお、死亡による逸失利益全般については、「死亡による逸失利益」をご覧ください。

3 裁判・弁護士基準

交通事故の損害賠償請求(保険金請求)では、「自賠責保険の支払基準」、「任意保険の支払基準」、「裁判・弁護士基準」という、3つの支払基準があります。

基本的に、「裁判・弁護士基準」が、一番高いです。

裁判・弁護士基準は、裁判所が認めている正当な基準です。

裁判所は、大量の交通事故による損害賠償請求事件を、適正かつ迅速に処理する必要があることから、損害の定額化・定型化の方針を打ち出しており、裁判所の提言や判例の傾向をもとに、裁判・弁護士基準が存在します。

裁判・弁護士基準は、基本的に、

(1)通称「赤い本」(「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故相談センター東京支部))の基準や、

(2)通称「青本」(「交通事故損害賠償額算定基準─実務運用と解説─」(日弁連交通事故相談センター))の基準になります。

「赤い本」は、東京地裁基準、「青本」は、全国基準とされています。

ただ、現在の実務では、「赤い本」の方がはるかに多く使われている状況であると思われ、「赤い本」の基準がポピュラーであると思います。

そして、裁判・弁護士基準は、弁護士に依頼することによって獲得できます。

詳しくは、「交通事故事件における3つの支払基準(自賠責保険、任意保険、裁判・弁護士)」をご覧ください。

4 「生活費控除率」

(1)裁判・弁護士基準~「赤い本」の基準、東京地裁基準

ア 原則的な基準

(ア)原則的な基準

生活費控除は、被害者が、仮に、交通事故により死亡しなければ、稼働収入や年金収入を得られたであろうが、他方、これを生活費で費消したであろうことから、生活費を控除すべきとの考えに基づきます。

そして、生活費控除率は、「赤い本」の基準では、原則として、以下のようになっています。

一家の支柱被扶養者1人の場合40%
被扶養者2人以上の場合30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)30%
男性(独身、幼児等を含む)50%

なお、交通事故被害者にとっては、生活費控除率が低いほど、有利になります。

(イ)原則的な基準の理由(「被扶養者2人以上の場合」の生活費控除率を、「被扶養者1人の場合」のそれよりも低く設定する理由)

例えば、被害者が、交通死亡事故時に、妻がいるが、子がいない場合が、「被扶養者1人の場合」、妻と子1人がいる場合が、「被扶養者2人の場合」になります。

そして、交通事故被害者の収入が、生活費で費消される割合は、むしろ、家計全体で見ると、「被扶養者2人の場合」の方が高いとも考えられます。

しかし、「赤い本」の基準で、「被扶養者2人の場合」の生活費控除率を低く設定しているのは、 逸失利益が、遺族の扶養利益の実質を備えるものであることから、遺族の生活保障に配慮した点にあると考えられます。

(ウ)原則的な基準の理由(女性の生活費控除率を、男性のそれよりも低く設定する理由)

交通事故被害者の収入が、生活費で費消される割合は、女性であっても、男性であっても、個人差があるはずです。

しかし、「赤い本」の基準で、女性の生活費控除率を低く設定しているのは、逸失利益の算定にあたって、「基礎収入額」が男性の方が高くなる傾向があることから、女性の生活費控除率を低く設定することにより、男女間格差を是正しようとしている点にあると考えられます。

例えば、「男性労働者・学歴計・全年齢平均賃金額」は、統計上(賃金センサス令和4年)、554万9100円、「女性労働者・学歴計・全年齢平均賃金額」は、同様に、394万3500円とされています。

そして、「「基礎収入額」×(1−生活費控除率)」は、平均男性労働者の場合、「554万9100円×(1−0.5)=274万4550円」、平均女性労働者の場合、「394万3500円×(1−0.3)=276万0450円」となり、近い金額になるため、男女間格差が是正されることになります

イ 原則的な基準の例外

(ア)女子年少者の場合

女子年少者の場合、基礎収入額については、「赤い本」の基準では、「女性労働者の全年齢平均賃金額」ではなく、「男女計全労働者の全年齢平均賃金額」と考えられています。

これは、「女性労働者の全年齢平均賃金額」と考えると、男子年少者との間で格差が生じるからです。

そして、女子年少者の場合、生活費控除率については、東京地裁基準では、「30%」ではなく、「45%程度」と考えることが多い状況です。

これは、「30%」と考えると、逆に、男子年少者より金額が高くなり、格差が生じるからです。

「交通損害関係訴訟」(佐久間邦夫東京地裁判事、八木一洋東京地裁判事編)には、次のように記載されています。

「年少の女性につき、基礎収入として死亡時の賃金センサスの全労働者・学歴計・全年齢平均賃金を採用する場合には、45%程度とされている。」

(イ)兄弟姉妹が相続人の場合

兄弟姉妹が相続人の場合、「赤い本」の基準では、生活費控除率を、原則的な基準より高くする例があります。

これは、兄弟姉妹が相続人の場合、逸失利益は、遺族(兄弟姉妹)の扶養利益の実質を備えず、遺族(兄弟姉妹)の生活保障に配慮すべき要請が低いからです。

(ウ)年金収入の場合

年金収入の場合、「赤い本」の基準では、生活費控除率を、原則的な基準より高くする例(例えば、60%など)が多い状況です。

これは、年金収入は、稼働収入よりも、生活費で費消される割合が高いことが多いと考えられるからです。

「交通損害関係訴訟」(佐久間邦夫東京地裁判事、八木一洋東京地裁判事編)には、次のように記載されています。

「年金等については、生活費に費やされる割合が高いと考えられることから、それらについて逸失利益の発生を認める場合にも、生活費控除率を通常より高くする例が多い(おおむね60%であるが、50%ないし80%程度と設定されることもある。)。」

但し、年金収入の他に、稼働収入もある場合、東京地裁基準では、生活費控除率を、原則的な基準と考えることが多い状況です。

この場合は、年金収入につき、生活費で費消される割合が高いとはいえないからです。

(2)裁判・弁護士基準~「青本」の基準

生活費控除率は、「青本」の基準では、原則として、以下のようになっています。

一家の支柱30%〜40%
女性(女児・主婦を含む)30%〜40%
男性単身者(男児を含む)50%

この点、被害者が一家の支柱である場合、判決例は30%から40%の範囲でばらつきがあるが、総体的には30%をとるものが多いとされています。

また、幼児など年少者・学生および単身者については、男女一律に50%とする例もあったが、現在では、男女間格差を是正する意味から、女性については生活費割合を30%ないし40%にとどめる例がほとんどであるとされています。

また、年少女子の逸失利益について、男女格差是正のために賃金センサスの全労働者平均賃金による算定した事例では、男性年少者・独身者の損害額との均衡を考慮して、生活費控除率を45%とするものがほとんどであるとされています。なお、最近の例で、40%以下の生活費控除率を採用したものもあるとされています。

さらに、男子単身者であっても事情により50%を下回る数値が設定される例もあるとされています。

また、年金逸失利益を算定する場合には、上記基準の割合より高い割合が認定される傾向にあるとされています。

(3)裁判・弁護士基準~大阪地裁基準

生活費控除率は、大阪地裁基準(「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」(大阪地裁民事交通訴訟研究会))では、原則として、以下のようになっています。

一家の支柱及び女性30%〜40%
その他50%

但し、年少女子につき、男女を合わせた全労働者の平均賃金を採用する場合、生活費控除率を45%とするとされています。

また、「一家の支柱」とは、被害者の世帯が主としてその被害者の収入によって生計を維持していた場合をいうとされています。

また、年金収入のみの者については、年金の逸失利益が認められる場合、年金の性格からして、収入に占める生活費の割合が高いと考えられることから、生活費控除率を通常より高くすることが多いとされています。

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