交通事故の死亡事案で加害者が不起訴の場合の解説(被害者側)
本記事では、交通事故の死亡事案で、被疑者に不起訴処分が下された場合について、被害者遺族側の観点から、以下のことを、解説します。
1 交通事故の死亡事案で、被疑者に不起訴処分が下された場合
交通事故の死亡事案で、被疑者に不起訴が下された場合について、被害者遺族側の観点から解説するにあたり、以下のようなケースを考えて、解説します。
(1)不起訴の場合~ケース1
ア 事故状況等
被疑者が、夜間、幹線道路を、車で運転(制限速度で運転)していたところ、道路を横断していた歩行者(80歳)に衝突し、歩行者が死亡した。
事故現場は、横断禁止の規制があり、ガードレールが設置されていた(歩行者は、ガードレールを乗り越えて横断した)。
被疑者は、前方をよく見てなかったことを認めた。
検察官は、仮に被疑者が前方をよく見ていたとしても、被疑者が、歩行者の発見可能地点で、事故を回避する行動をしても(急ブレーキをかける等しても)、事故を回避できなかった可能性があるとして、被疑者に不起訴処分を下した。
イ 民事の過失割合
東京地裁民事交通訴訟研究会が作成した、過失割合の認定基準(「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)(別冊判例タイムズ38))では、過失割合は、以下のようになります。
なお、検察官は、刑事と民事の判断は別と考え、刑事の処分を下すにあたり、民事の過失割合を考慮しないのが通常です。
歩行者:車 | ||
---|---|---|
基本 | 20:80 | |
修正要素 | 夜間 | +5 |
幹線道路 | +10 | |
横断禁止の規制あり | +10 | |
高齢者 | -5 | |
結論 | 40:60 |
(2)不起訴の場合~ケース2
ア 事故状況等
被疑者が、信号機のある交差点を、車で直進進行したところ、直進進行していたバイクに衝突し、バイクの運転者(17歳の男子高校生)が死亡した。
被疑者は、車側の信号は青だった(バイク側の信号は赤だった)と主張した。
目撃者はおらず、車にはドライブレコーダーがついておらず、事故現場周辺に防犯カメラもなかった。
検察官は、被疑者の過失を立証できないとして、被疑者に不起訴処分を下した。
被害者遺族は、被害者が死亡しているので、死人に口無しの状況で、本当は、車側が赤なのに、青と嘘を言って、被害者に責任を押し付けているのではないかと疑念を持っていて、検察官の不起訴処分に納得がいかない状況である。
イ 民事の過失割合
被疑者の主張を前提とした場合、上記の過失割合の認定基準では、過失割合は、車:バイク=0:100になります。
2 交通事故の死亡事案で、被疑者に不起訴処分が下された場合~刑事手続き
(1)不起訴記録の取得
検察官が被疑者に不起訴処分を下した場合、被害者遺族側としては、まず、不起訴記録を取得して、事故状況の詳細を確認することから始めるのが通常です。
不起訴記録は、検察庁に申請して取得(正確には、閲覧・謄写)できます。
但し、不起訴記録は、確定記録(正確には、刑事確定訴訟記録)より、開示される記録が少なくなります。
確定記録の場合、実況見分証書、捜査報告書、供述調書など、検察官が被疑者の犯罪事実を立証するための証拠として裁判所に提出した記録は、基本、全て取得できます。
他方、不起訴記録の場合、客観的証拠が開示され、実況見分調書や写真撮影報告書などは開示されますが、供述調書は開示されません。
(2)検察審査会への審査申立て(検察官の不起訴処分に対する不服申立て)
被害者遺族側としては、次に、検察審査会に審査申立て(検察官の不起訴処分に対する不服申立て)をすることが考えられます。
申立て後、検察審査会は、検察官の不起訴処分の当否を審査します。
そして、検察審査会は、結論が出たら、議決します。
検察審査会の議決には、
- 不起訴相当(検察官の不起訴処分は相当である)
- 不起訴不当(検察官の不起訴処分は不当で、さらに詳しく捜査すべきである)
- 起訴相当(起訴処分を下すべきである)
があります。
(3)刑事手続きにおける立証責任等
ア
刑事手続きにおいては、検察官が、「被疑者に過失があったこと」の立証責任を負います。
検察官が立証できなければ、裁判上は、被疑者に過失がなかったと認定されます。
また、検察官の立証の程度は、「合理的疑いを超える程度」、「合理的疑いを差し挟む余地がない程度」のものが要求されています。
検察官の立証の程度は、高く要求されています。
検察官がその高く要求される立証ができなければ、裁判上は、被疑者に過失がなかったと認定されます。
これは、刑事手続きが、人に刑罰を課す手続きであることから、冤罪(えんざい)を生まないように、慎重な手続きが要請されるからです。
イ
統計上も、検察審査会の議決において、不起訴不当、起訴相当の議決が出るのは、少ない状況です。
ウ
このようなことからしますと、上記のケース1やケース2で、検察官の判断を覆すのは、新たな証拠が出てくる等のことがない限り、難しいところがあると言えます。
3 交通事故の死亡事案で、被疑者に不起訴処分が下された場合~民事手続き
(1)被疑者側の任意保険会社の対応
ア 不起訴の場合~ケース1
被害者遺族側の民事の損害賠償請求(保険金請求)において、被疑者側の任意保険会社の対応は、まず、ケース1の場合、被疑者に不起訴処分が下されたことを問題にしないことがあります。
ケース1では、被疑者は、前方をよく見てなかったことを認めており、また、上記の過失割合の認定基準では、過失割合は、車:歩行者=60:40になり、車側(被疑者側)の方が過失が大きいからです。
ケース1では、車の運転者が加害者、歩行者が被害者と言えるからです。
ケース1では、被疑者側の任意保険会社が、被疑者に不起訴処分が下されたことを問題にすることなく、通常の示談交渉をすることができることがあります。
イ 不起訴の場合~ケース2
他方、ケース2の場合、被疑者側の任意保険会社は、支払いを拒否するのが通常です。
ケース2では、被疑者は、車側の信号は青だった(バイク側の信号は赤だった)と主張しており、また、被疑者の主張を前提とした場合、上記の過失割合の認定基準では、過失割合は、車:バイク=0:100になるからです。
ケース2では、被疑者の主張を前提とした場合、車の運転者が被害者、バイクの運転者が加害者と言えるからです。
ケース2では、被疑者側の任意保険会社は、「任意保険会社として支払うものはありません。被害者遺族が自分で、自賠責保険会社に被害者請求をしてください。」という対応をするのが通常です。
(2)交通事故の死亡事案の、民事手続きにおける立証責任等
ア 不起訴の場合~ケース2
但し、ケース2の場合であっても、ケース2は交通事故の死亡事案であるため、被害者遺族側は、民事手続きでは、戦えるところがあります。 以下、説明いたします。
イ 一般不法行為責任
民法709条は、不法行為に基づく損害賠償責任を規定しています。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」は、この一般不法行為責任を負います。
但し、この一般不法行為責任の場合、被害者が、「相手方に過失があったこと」の立証責任を負います。
刑事手続きの場合と同じく、被害者が立証できなければ、裁判上は、相手方に過失がなかったと認定されます。
よって、一般不法行為責任の場合、刑事手続きの場合と同じく、被害者遺族側は、苦戦を強いられることになります。
ウ 運行供用者責任
しかし、自動車損害賠償保障法(自賠法)3条は、交通事故の人身事故の場合、運行供用者(「自己のために自動車を運行の用に供する者」)の損害賠償責任を規定しています。
人身事故を起こした車の所有者や運転者は、この運行供用者責任を負います。
そして、自賠法3条は、民法709条から、立証責任を転換しています。
運行供用者(人身事故を起こした車の所有者や運転者)が、「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」を立証できない限り、損害賠償責任を免れません。
よって、運行供用者責任の場合、刑事手続きの場合と立証責任が逆になっていることから、被害者遺族側は、戦えるところがあります。
(3)自賠責の被害者請求
ア 不起訴の場合~ケース2
ケース2の場合、被害者遺族側としては、まず、自賠責保険会社に対して被害者請求をしていくのが通常です。
ケース2では、被害者は、17歳の男子高校生ですので、この場合、被害者に重過失がある等の問題がなければ、自賠責保険金は、死亡損害について、上限額の3000万円が出る状況です。
イ 自賠責の被害者請求~被害者の重過失が問題となる場合
しかし、被疑者は、バイク側の信号が赤だったと主張しています。
そして、自賠責では、被害者に重過失がある場合、以下のように減額されます。
(死亡に係るもの)
被害者の過失割合 | 減額割合 |
---|---|
7割未満 | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
そして、被疑者の主張を前提とした場合、過失割合は、車:バイク=0:100になります。
被害者の過失は10割になり、自賠責保険金は1円も出ないのが基本となります。
ウ 当事務所(交通死亡事故・専門弁護士事務所)へのご相談のお勧め
しかし、被害者遺族側は、上記のような運行供用者責任において立証責任が転換されていることをもとに主張することによって、自賠責保険金の死亡損害の上限額の3000万円を獲得できることがあります。
この点、当事務所は、このような事案も、積極的に受任しております。
このような事案は、当事務所に依頼するメリットが大きく、また、当事務所は、得意意識が強いです。
通常、自賠責保険金が出なかったり、大きく減額されるのに、当事務所が対応することにより、自賠責保険金の死亡損害の上限額の3000万円を獲得できたり、小さな減額で済む場合があります。
よって、まずは、当事務所の無料弁護士相談(面談相談、電話相談など)を、ご利用されることをお勧めいたします。
決して諦めずに、当事務所にご相談ください。
(4)民事裁判
ア 不起訴の場合~ケース2
ケース2の場合で、被害者遺族が、当事務所に依頼して、自賠責保険金の死亡損害の上限額の3000万円を獲得できたと考えます。
ただ、ケース2では、被害者は、17歳の男子高校生ですので、この場合、被害者に過失がなければ、民事裁判では、死亡による逸失利益は6800万円程度になり、死亡慰謝料は2000万円~2500万円になります。
そこで、被害者遺族側は、さらに、自賠責保険金では足りない分を、民事裁判で求めることが考えられます。
イ 民事裁判~被疑者側の任意保険会社の対応
被害者遺族側が、損害賠償請求訴訟を提起した場合、被疑者側の任意保険会社は、当然ながら、激しく争ってきます。
高等裁判所や最高裁判所まで争うことになる場合があります。
ウ 当事務所(交通死亡事故・専門弁護士事務所)へのご相談のお勧め
しかし、被害者遺族側は、上記のような運行供用者責任において立証責任が転換されていることをもとに主張することによって、戦えるところがあります。
この点、上記のように、当事務所は、このような事案も、積極的に受任しております。
このような事案は、当事務所に依頼するメリットが大きく、また、当事務所は、得意意識が強いです。
よって、まずは、当事務所の無料弁護士相談(面談相談、電話相談など)を、ご利用されることをお勧めいたします。
決して諦めずに、当事務所にご相談ください。