交通事故の死亡慰謝料の相場等の解説
本記事では、交通事故の死亡慰謝料について、以下のこと等を、解説します。
また、本記事は、網羅的に詳しく解説していますが、とりあえず、交通事故の死亡慰謝料の相場の目安を知りたい方(結論を知りたい方)は、以下の目次の項目をクリックしてご覧ください。
本記事では、交通事故の死亡慰謝料について、以下の目次の項目を、順に、解説します。
1 交通事故の自動車保険~自賠責保険、任意保険
交通事故の被害者は、加害者側に対して、損害賠償請求をすることができます。
他方、自動車の所有者は、交通事故を起こして損害賠償義務を負うリスクに備えて、自動車保険に加入しているのが通常です。
この場合の自動車保険には、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と、任意保険(対人賠償保険、対物賠償保険)があります。
自賠責保険は、法律上、全ての自動車の所有者が加入することが義務付けられている保険です。よって、自賠責保険は、強制保険ともいいます。
任意保険は、自動車の所有者が任意に加入する保険です。
任意保険は、自賠責保険で補償されない範囲を補償する、自賠責保険の上積み保険になります。
2 交通事故の死亡慰謝料等の獲得を、弁護士に依頼するメリット~裁判・弁護士基準の金額を獲得
(1)交通事故の慰謝料等の獲得を、弁護士に依頼するメリット
そして、被害者には、加害者側の任意保険会社が、慰謝料等を支払うのが通常です。
しかし、保険会社は、営利企業であるため、極力、支払いを少なくしようとする傾向があります。
任意保険会社の慰謝料等提示額(任意保険の支払基準)は、正当な基準(裁判・弁護士基準)と比較して、極めて低額であるのが一般的です。
被害者は、弁護士に依頼すれば、正当な基準(裁判・弁護士基準)の金額を基本的に獲得できます。
よって、ここに、交通事故の慰謝料等の獲得を、被害者が弁護士に依頼するメリットがあります。
(2)交通事故の死亡慰謝料等の獲得を、弁護士に依頼するメリット
そして、例えば、正当な基準(裁判・弁護士基準)だと、10万円の損害であるところ、任意保険会社の示談提示額が6万円だった場合、弁護士に依頼するメリットは、それほど大きくありません。
他方、例えば、正当な基準(裁判・弁護士基準)だと、1億円の損害であるところ、任意保険会社の示談提示額が6000万円だった場合、弁護士に依頼するメリットは、極めて大きいと言えます。
そして、死亡事案のように、損害額が高額になる事案は、後者に近く、数千万円も差が出ることは頻繁に起こります。
よって、交通事故の死亡慰謝料等の獲得を、被害者遺族が弁護士に依頼するメリットは、極めて大きいと言えます。
(3)当事務所(交通死亡事故・専門弁護士事務所)へのご相談・ご依頼のお勧め
但し、通常、弁護士は、交通事故の死亡事案を、一生に一度、取り扱うかどうかという感じだと思います。
よって、交通事故の死亡慰謝料等の獲得を、弁護士に依頼したからといって、必ずしも適切な金額を獲得できるとは限りません。
当事務所の経験でも、他の弁護士から示談を勧められていたが、疑問に思われて、当事務所にご依頼いただき、結局、他の弁護士から勧められていた金額から、約3000万円も増額して解決したことがあります。
このように、交通事故の死亡事案は、弁護士によって獲得できる金額に大きく(数百万円以上も)差が出ることがあります。
よって、交通事故の死亡慰謝料等の獲得を、弁護士に依頼する場合、交通事故の死亡事案を専門的に取り扱う当事務所に、ご依頼されることをお勧めいたします。
まずは、当事務所の無料弁護士相談(面談相談、電話相談など)を、ご利用されることをお勧めいたします。
3 交通事故の死亡慰謝料~自賠責保険の支払基準、任意保険の支払基準、裁判・弁護士基準
そこで、次に、交通事故の死亡慰謝料について、自賠責保険の支払基準、任意保険の支払基準、裁判・弁護士基準を、順に説明いたします。
(1)交通事故の死亡慰謝料~自賠責保険の支払基準
自賠責保険の支払基準は、法令で定められています。
死亡慰謝料等の自賠責保険の支払基準は、以下のようになります。
ア 死亡慰謝料
(ア)
400万円~1350万円
(イ)
a
この点、死亡慰謝料の本人の慰謝料は、400万円とするとされています。
また、死亡慰謝料の遺族の慰謝料については、請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円とし、2人の場合には650万円とし、3人以上の場合には750万円とするとされています。
また、被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算するとされています。
b
よって、死亡慰謝料は、最も低くて、本人分の400万円のみになります。被害者の父母、配偶者及び子がおらず、相続人が兄弟姉妹であった場合等で、遺族分が認められない場合になります。
他方、死亡慰謝料は、最も高くて、本人分400万円+遺族3人以上の分750万円+被扶養者加算分200万円=1350万円になります。
イ 死亡に至るまでの傷害に関する慰謝料
1日につき4300円
(2)交通事故の死亡慰謝料~任意保険の支払基準
上記のように、任意保険は、自賠責保険で補償されない範囲を補償する、自賠責保険の上積み保険になります。
よって、死亡慰謝料の「任意保険の支払基準」の金額は、上記の「自賠責保険の支払基準」の金額(400万円~1350万円)以上の金額になります。
ただ、どこまで上積みするかの、任意保険の支払基準は、任意保険会社各社が決めています。
任意保険の支払基準は、概ね、以下のような傾向があると思います。
但し、あくまで傾向ですので、ご注意ください。
ア 死亡慰謝料
1000万円~1800万円
イ 死亡に至るまでの傷害に関する慰謝料
自賠責保険の支払基準と同じ基準である傾向があります。
(3)裁判・弁護士基準
ア 裁判・弁護士基準
裁判・弁護士基準は、裁判所が基本的に認めている基準になります。
裁判所は、大量の交通事故による損害賠償請求事件を、適正かつ迅速に処理する必要があることから、損害の定型化・定額化の方針を打ち出しており、裁判所の提言や判例の傾向をもとに、裁判・弁護士基準が存在します。
イ 赤い本基準、青本基準
裁判・弁護士基準は、基本的に、
- 通称「赤い本」(「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故相談センター東京支部))の基準
- 通称「青本」(「交通事故損害賠償額算定基準─実務運用と解説─」(日弁連交通事故相談センター))の基準
になります。
この点、「赤い本基準」は、東京地裁基準、「青本基準」は、全国基準とされています。
ただ、現在、「赤い本基準」が、実務で最も使われている裁判・弁護士基準になります。
ウ 弁護士に依頼した場合に基本的に獲得可能
上記のように、被害者遺族は、弁護士に依頼すれば、裁判・弁護士基準の金額を基本的に獲得できます。
当事務所(交通死亡事故・専門弁護士事務所)へのご相談・ご依頼をお勧めいたします。
交通事故の死亡慰謝料の相場については、本記事では、裁判・弁護士基準の金額を説明いたします。
4 交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)(1)~いくら請求できるか?
(1)相場(裁判・弁護士基準)(赤い本基準)の目安~結論
交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)について、結論からお伝えいたします。
交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)(赤い本基準)の目安は、以下のようになります。
但し、あくまで目安ですので、ご注意ください。
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
以下、交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)について、詳しく説明いたします。
5 交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)(2)~いくら請求できるか?
(1)交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)~赤い本基準
ア 相場(裁判・弁護士基準)~赤い本基準
上記のように、赤い本基準は、東京地裁基準で、実務で最も使われている裁判・弁護士基準になります。
赤い本基準は、以下のようになります。
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
母親、配偶者 | 2500万円(H28からの基準)、2400万円(H27までの基準) |
その他 | 2000万円〜2500万円(H28からの基準)、2000万円〜2200万円(H27までの基準) |
イ 一応の目安
上記の基準は、具体的な斟酌事由により、増減されるべきで、一応の目安を示したものであるとされています。
ウ 「一家の支柱」
「一家の支柱」は、主として被害者の収入によって生計が維持されている場合をいうとされています。
一家の支柱の場合、死亡慰謝料が高く認められているのは、遺族の生活保障に配慮するためです。
エ 「母親、配偶者」
「母親、配偶者」は、基本、家事従事者を想定しているとされています。
「その他」の場合より、死亡慰謝料が高く認められているのは、配偶者や子ら家族に対する影響の大きさから、「その他」の場合より差があるのではないかとの考えに基づくとされています。
オ 「その他」
「その他」は、独身の男女、子供、幼児、現に職業に就いていない68歳以上の老齢者等をいうとされています。
そして、「2000万円〜2500万円」については、人生を全うした高齢者ほど、低く(2000万円に近く)、人生を全うしていない若年者ほど、高く(2500万円に近く)認定される傾向があります。
カ 死亡慰謝料の総額
上記の基準は、死亡慰謝料の総額であり、民法711条所定の者(父母、配偶者及び子)とそれに準ずる者の分も含まれているとされています。
(2)交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)~青本基準
ア 相場(裁判・弁護士基準)~青本基準
上記のように、青本基準は、全国基準になります。
青本基準は、以下のようになります。
一家の支柱の場合 | 2800万円~3100万円 |
---|---|
一家の支柱に準ずる場合 | 2500万円~2800万円 |
その他の場合 | 2000万円~2500万円 |
イ 「一家の支柱」
「一家の支柱」とは、当該被害者の世帯が、主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいうとされています。
ウ 「一家の支柱に準ずる場合」
「一家の支柱に準ずる場合」とは、「一家の支柱」以外の場合で、例えば、
- 家事の中心をなす主婦
- 養育を必要とする子を持つ母親
- 独身者であっても、高齢な父母や幼い兄弟を扶養し、あるいはこれらの者に仕送りしている者
などをいうとされています。
エ 死亡慰謝料の合計額
上記基準額は、死亡被害者の近親者固有慰謝料もあわせた、死亡被害者一人あたりの合計額であるとされています。
(3)交通事故の死亡慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)~大阪地裁基準
ア 相場(裁判・弁護士基準)~大阪地裁基準
大阪地裁基準(「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」(大阪地裁民事交通訴訟研究会))は、以下のようになります。
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
その他 | 2000万円~2500万円 |
イ 一切の事情
死亡慰謝料額は、一切の事情を考慮して定められるので、考慮される事情は、算定基準に掲げたものに限らないとされています。
ウ 死亡慰謝料の総額
死亡慰謝料の基準額は、本人分及び近親者分を含んだものであるとされています。
6 交通事故の死亡慰謝料の増額事由~どのような場合に増額されるか?
(1)交通事故の死亡慰謝料の増額事由~赤い本基準
ア 加害者に故意又は重過失がある場合
(ア)
死亡慰謝料の増額事由は、赤い本基準では、加害者に故意又は重過失がある場合に認められています。
具体的には、以下のような場合に認められています。
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- ことさらに信号無視
- 薬物等の影響により正常な運転ができない状態での運転
(イ)
この点、裁判所は、大量の交通事故による損害賠償請求事件を、適正かつ迅速に処理する必要があることから、損害の定型化・定額化の方針を打ち出しており、死亡慰謝料の増額事由は、上記の場合に限定して認める傾向があります。
例えば、裁判所は、上記の「著しいスピード違反」の場合に、死亡慰謝料の増額を認め、単なる「スピード違反」の場合は、基本の基準で考慮済みであるとして、増額を認めない傾向があります。
イ 加害者に著しく不誠実な態度等がある場合
(ア)
死亡慰謝料の増額事由は、赤い本基準では、加害者に著しく不誠実な態度等がある場合に認められています。
具体的には、事故責任がある者が、何ら理由がないのに責任転嫁をはかったり、被害者を侮辱したりした場合に認められています。
単に賠償交渉を保険会社任せにしたということだけでは、「著しく不誠実な態度」とはいえないとされています。
(イ)
この増額事由の場合も、例えば、裁判所は、上記の「著しく不誠実な態度」がある場合に、死亡慰謝料の増額を認め、単なる「不誠実な態度」がある場合は、基本の基準で考慮済みであるとして、増額を認めない傾向があります。
ウ 被害者の親族が精神疾患に罹患した場合
死亡慰謝料の増額事由は、赤い本基準では、被害者の親族が精神疾患に罹患した場合に認められています。
交通事故の死亡事案の場合、基本、増額事由として、この場合は、認められています。
この場合、証拠として、診断書を提出する必要があります。
エ 被扶養者が多数の場合
死亡慰謝料の増額事由は、赤い本基準では、被扶養者が多数の場合に認められています。
一家の支柱、例えば、夫が交通事故により死亡して、残された遺族が、妻と子供1人の場合と、妻と子供4人の場合では、上記のように死亡慰謝料の総額は変わらないとされますが、他方、子供1人の精神的苦痛は同じようなもののはずであるから、後者の場合は死亡慰謝料を増額すべきとの考えに基づくものです。
(2)交通事故の死亡慰謝料の増額事由~大阪地裁基準
ア 加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、ひき逃げ等が認められる場合
大阪地裁基準では、加害者に以下の運転等が認められる場合、死亡慰謝料の増額を考慮するとされています。
- 飲酒運転
- 無免許運転
- 著しい速度違反
- 殊更な信号無視
- ひき逃げ
イ 被扶養者が多数の場合
大阪地裁基準では、被扶養者が多数の場合、死亡慰謝料の増額を考慮するとされています。
ウ 損害額の算定が不可能又は困難な損害の発生が認められる場合
大阪地裁基準では、損害額の算定が不可能又は困難な損害の発生が認められる場合、死亡慰謝料の増額を考慮するとされています。
損害額の算定が不可能又は困難な損害については、死亡慰謝料で考慮するということです。
7 交通事故の死亡慰謝料の減額事由~どのような場合に減額されるか?
(1)交通事故の死亡慰謝料の減額事由~赤い本基準
ア 生活を共同していない兄弟姉妹やその代襲相続人(甥、姪)が損害賠償請求権者になる場合
赤い本基準では、生活を共同していない兄弟姉妹やその代襲相続人(甥、姪)が損害賠償請求権者になる場合、基本、「その他」の場合より、死亡慰謝料が減額されるとされています。
(2)交通事故の死亡慰謝料の減額事由~大阪地裁基準
ア 相続人が被害者と疎遠であった場合
大阪地裁基準では、相続人が被害者と疎遠であった場合、死亡慰謝料の減額を考慮するとされています。
8 交通事故後、死亡に至るまでの傷害に関する慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)
(1)交通事故の傷害慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)~赤い本基準
ア 交通事故後、死亡に至るまでの傷害
交通事故の死亡事案でも、交通事故後、死亡に至るまでの傷害に関して、傷害慰謝料が認められます。
例えば、交通事故により重傷を負って入院し、懸命の治療が行われたが、残念ながら死亡に至った場合、交通事故日から死亡日までの傷害慰謝料が認められます。
イ 交通事故の傷害慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)~赤い本基準
傷害慰謝料の相場(裁判・弁護士基準)(赤い本基準)は、以下のようになります。
入院1月あたり | 53万円 |
---|---|
入院2月あたり | 101万円 |
入院3月あたり | 145万円 |
入院4月あたり | 184万円 |
入院5月あたり | 217万円 |
入院6月あたり | 244万円 |
ウ 交通事故の傷害慰謝料の具体例
例えば、交通事故日から死亡日まで15日であった場合、傷害慰謝料は、
53万円÷30日×15日(交通事故日から死亡日までの期間)=27万円程度
になります。
例えば、交通事故日から死亡日まで1か月半であった場合、傷害慰謝料は、
53万円+(101万円-53万円)÷30日×15日=53万円+24万円=77万円
になります。
9 交通事故の死亡慰謝料と傷害慰謝料以外の損害
死亡慰謝料と傷害慰謝料以外の損害には、以下のようなものがあります。
死亡による損害 | 死亡による逸失利益 葬儀関係費用 |
---|---|
傷害(死亡に至るまでの傷害)による損害 | 治療関係費 入院雑費 入院付添費 付添人の通院交通費 休業損害 |
その他の損害 | 損害賠償請求関係費用 弁護士費用 遅延損害金 物的損害(物損) |
死亡慰謝料と傷害慰謝料以外の損害について、詳しくは、「交通事故の死亡賠償金(保険金)の相場等の解説」をご覧ください。
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10 交通事故の死亡慰謝料等の減額要因~過失相殺、過失割合の問題~減額されるか?
(1)過失相殺
過失相殺(かしつそうさい)は、被害者にも過失(落ち度)があった場合、被害者に生じた損害全額を加害者に負担させるのは、公平の観点から妥当ではないので、その過失割合に応じて、加害者に負担させる損害額を減額すべきであるとの考えに基づくものです。
例えば、被害者の死亡慰謝料が2500万円で、被害者と加害者の過失割合が、1:9である場合、被害者遺族には、
2500万円×0.9(加害者の過失割合分)=2250万円
が認められることになります。
例えば、被害者の死亡慰謝料が2500万円で、被害者と加害者の過失割合が、2:8である場合、被害者遺族には、
2500万円×0.8(加害者の過失割合分)=2000万円
が認められることになります。
このように、死亡慰謝料は、過失割合の少しの違いで、大きな(数百万円程度の)違いが生じることになります。
(2)過失割合
裁判所は、大量の交通事故による損害賠償請求事件を、適正かつ迅速に処理する必要があることから、過失割合についても、交通事故の状況を詳細に類型化して、過失割合の基準を提言しています。
これは、具体的には、東京地裁民事交通訴訟研究会が作成した、過失割合の認定基準(「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)(別冊判例タイムズ38))になります。
過失割合について、詳しくは、「交通死亡事故の過失割合の解説」をご覧ください。
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11 交通事故の死亡慰謝料等の請求権者~相続関係~誰が請求できるか?
(1)相続人
交通事故の被害者は、加害者側に対して、損害賠償請求をすることができます。
但し、交通事故の死亡事案の場合、被害者は死亡しています。
そして、被害者が死亡した場合、被害者の損害賠償請求権は、相続人が相続します。
よって、死亡慰謝料等の損害賠償請求ができるのは、被害者の相続人になります。
(2)相続人の範囲、相続分
ア 相続人の範囲、相続分
そこで、次に、相続人は誰がなるか、相続分について、説明いたします。
以下のようになります。
配偶者 | 子 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 | 相続人(相続分) | |
---|---|---|---|---|---|
① | あり | あり | 配偶者(2分の1)、子(2分の1) | ||
② | あり | なし | あり | 配偶者(3分の2)、直系尊属(3分の1) | |
③ | あり | なし | なし | あり | 配偶者(4分の3)、兄弟姉妹(4分の1) |
④ | あり | なし | なし | なし | 配偶者 |
⑤ | なし | あり | 子 | ||
⑥ | なし | なし | あり | 直系尊属 | |
⑦ | なし | なし | なし | あり | 兄弟姉妹 |
イ 子や直系尊属や兄弟姉妹が、複数人いる場合
子や直系尊属や兄弟姉妹が、複数人いる場合、相続分を、複数人で均等に分けることになります。
例えば、①で、子が2人いる場合、子の相続分は、2分の1×2分の1=4分の1ずつになります。
ウ 直系尊属
直系尊属は、父母や祖父母や曾祖父母になります。
そして、親等の近い者が優先します。
例えば、父母と祖母がいる場合、相続人は、父母のみになります。
エ 配偶者と子と父母がおらず、祖父母と兄弟姉妹がいる場合
例えば、配偶者と子と父母がおらず、祖母と兄がいる場合、祖母は直系尊属ですので、⑥のように、相続人は、祖母のみになります。
この場合、兄が相続人になると思われがちですが、兄は相続人になりませんので、ご注意ください。
オ 子が既に死亡していないが、その子の子(孫)がいる場合
子が既に死亡していないが、その子の子(孫)がいる場合、孫は、相続人になります。
孫の相続分は、子の相続分と同じです。
これを、代襲(だいしゅう)相続といいます。
例えば、①で、子が1人いたが既に死亡していて、その子の子(孫)がいた場合、孫は、相続人になり、相続分は2分の1になります。
カ 兄弟姉妹が既に死亡していないが、その兄弟姉妹の子(甥、姪)がいる場合
兄弟姉妹が既に死亡していないが、その兄弟姉妹の子(甥、姪)がいる場合、甥、姪は、相続人になります。
甥、姪の相続分は、兄弟姉妹の相続分と同じです。
これを、代襲相続といいます。
例えば、③で、兄が1人いたが既に死亡していて、その兄の子(甥)がいた場合、甥は、相続人になり、相続分は4分の1になります。
キ 兄弟姉妹が複数人いる場合で、全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹がいる場合
上記のように、兄弟姉妹が複数人いる場合、相続分を複数人で均等に分けることになります。
但し、被害者と父母の双方が同じ兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)と、被害者と父母の一方のみが同じ兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)がいる場合、後者の相続分は、前者の2分の1になります。
例えば、③で、全血兄と半血弟がいる場合、全血兄の相続分は、4分の1×3分の2=6分の1、半血弟の相続分は、4分の1×3分の1=12分の1になります。
(3)固有の死亡慰謝料請求権者
ア 被害者の「父母、配偶者及び子」
(ア)
交通事故の死亡事案の場合、被害者の「父母、配偶者及び子」は、法律(民法711条)上、固有の死亡慰謝料請求をすることができるとされています。
(イ)
例えば、①のように、配偶者と子がいる場合を考えます。
この場合、相続人は、配偶者と子になります。
父母は、相続人になりません。
そして、配偶者と子は、被害者本人の死亡慰謝料の損害賠償請求権の相続人として、死亡慰謝料請求ができるとともに、固有の死亡慰謝料請求もできることになります。
父母は、固有の死亡慰謝料請求のみができることになります。
このように、相続人で、かつ、固有の死亡慰謝料請求権者である場合があります。
また、相続人ではないが、固有の死亡慰謝料請求者である場合があります。
(ウ)
例えば、⑦のように、配偶者と子と直系尊属(父母や祖父母)がおらず、兄弟姉妹がいる場合を考えます。
この場合、相続人は、兄弟姉妹になります。
そして、兄弟姉妹は、被害者本人の死亡慰謝料の損害賠償請求権の相続人として、死亡慰謝料請求ができますが、ただ、固有の死亡慰謝料請求はできないことになります。
このように、相続人であるが、固有の死亡慰謝料請求者ではない場合があります。
イ 被害者の「父母、配偶者及び子」に類似する者
被害者の「父母、配偶者及び子」に類似する者(内縁の妻など)は、判例上、固有の死亡慰謝料請求をすることができる場合があるとされています。
ウ 死亡慰謝料の総額
但し、裁判・弁護士基準では、赤い本基準、青本基準、大阪地裁基準のいずれにおいても、上記の死亡慰謝料の基準額は、死亡慰謝料の総額であり、民法711条所定の者(父母、配偶者及び子)とそれに準ずる者の分も含まれているとされています。
つまり、固有の死亡慰謝料請求権者の多寡に関わらず、基本、死亡慰謝料の総額は変わらないことになります。
(4)相続人であることの証明、固有の死亡慰謝料請求権者であることの証明~戸籍謄本等
ア 相続人であることの証明、固有の死亡慰謝料請求権者であることの証明
交通事故の死亡事案で、加害者側(任意保険会社)に対する損害賠償請求(保険金請求)の手続きを進めるにあたっては、相続人は、相続人であることを証明する必要があります。
また、固有の死亡慰謝料請求権者は、固有の死亡慰謝料請求権者であることを証明する必要があります。
これは、基本、被害者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得して証明することになります。
イ ①の場合(配偶者あり、子あり)
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、妻のB、子のCの場合を考えます。
この場合、BとCは、自分達だけが相続人であること、自分達が固有の死亡慰謝料請求権者であることを証明するためには、(1)Bは、Aの妻であること、(2)Cは、Aの子であること、(3)Cの他に、Aには、子がいないことを証明する必要があります。
そのためには、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
ウ ⑥の場合(配偶者なし、子なし、直系尊属あり)
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、父のB、母のCの場合を考えます。
この場合、BとCは、自分達だけが相続人であること、自分達が固有の死亡慰謝料請求権者であることを証明するためには、(1)BとCは、Aの父母であること、(2)Aには、配偶者がいないこと、(3)Aには、子がいないことを証明する必要があります。
そのためには、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
エ ⑦の場合(配偶者なし、子なし、直系尊属なし、兄弟姉妹あり)
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、兄のBの場合を考えます。
この場合、Bは、自分だけが相続人であることを証明するためには、(1)Bは、Aの兄であること、(2)Aには、配偶者がいないこと、(3)Aには、子がいないこと、(4)Aの父母は、既に死亡していること、(5)Aの祖父母は、既に死亡していること、(6)Bの他に、Aには、兄弟姉妹がいないことを証明する必要があります。
(1)~(3)は、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(4)と(5)は、その旨の記載がある戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(6)は、父の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等と、母の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
なお、戸籍謄本等で重なるものは、重ねて取得する必要はありません。
12 交通事故の死亡慰謝料等の請求権の消滅時効~いつまで請求できるか?
(1)損害賠償請求権の消滅時効
交通事故の人身事故の被害者の損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人(被害者が未成年者の場合の、その親など)が、損害及び加害者を知った時から、5年で消滅時効にかかります。
交通事故の死亡事案の場合、相続人が、損害及び加害者を知った時からになります。
時効の起算点は、交通事故の死亡事案の場合、基本、死亡日になります。
また、令和2年3月31日までに発生した交通事故の人身事故については、3年で消滅時効にかかります。
(2)時効の更新、時効の完成猶予
他方、時効の更新、時効の完成猶予の制度があります。
例えば、被害者遺族が、加害者側(任意保険会社)から損害の一部の支払いを受けた場合、時効は、その時から新たに進行を始めます。
また、被害者遺族が、加害者側の任意保険会社から示談額を提示された場合、時効は、その時から新たに進行を始めます。
また、被害者遺族が、加害者側に対して、損害賠償請求訴訟を提起した場合、時効は、訴訟が終了するまでの間は、完成しません。そして、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、訴訟が終了した時から新たに進行を始めます。
(3)自賠責保険会社に対する被害者請求権の消滅時効
交通事故の人身事故の被害者の加害者側の自賠責保険会社に対する被害者請求権は、3年で消滅時効にかかります。
但し、平成22年3月31日までに発生した交通事故については、2年で消滅時効にかかります。
13 交通事故の死亡慰謝料等に、税金(相続税など)がかかるか?
ア
交通事故の死亡事案の被害者遺族は、加害者側に対して、損害賠償請求をすることができます。
他方、自動車の所有者は、交通事故を起こして損害賠償義務を負うリスクに備えて、自動車保険の任意保険(対人賠償保険など)に加入しているのが通常です。
そこで、被害者遺族には、加害者側の任意保険会社が、死亡賠償金(保険金)を支払うのが通常です。
この死亡賠償金(保険金)の損害項目の一つに、死亡慰謝料があります。
イ
そして、この死亡賠償金(保険金)については、税金(相続税、所得税など)はかかりません。
国税庁も、税金がかからないことを認めています。