交通死亡事故の過失割合の解説
本記事では、交通死亡事故の過失割合について、被害者遺族側の観点から、以下のこと等を、解説します。
本記事では、交通死亡事故の過失割合について、被害者遺族側の観点から、以下の目次の項目を、順に、解説します。
1 過失相殺、過失割合
(1)過失相殺
過失相殺(かしつそうさい)は、被害者にも過失(落ち度)があった場合、被害者に生じた損害全額を加害者に負担させるのは、公平の観点から妥当ではないので、その過失割合に応じて、加害者に負担させる損害額を減額すべきであるとの考えに基づくものです。
例えば、被害者の損害額の合計が7000万円で、被害者と加害者の過失割合が、1:9である場合、被害者遺族には、
7000万円×0.9(加害者の過失割合分)=6300万円
が認められることになります。
例えば、被害者の損害額の合計が7000万円で、被害者と加害者の過失割合が、2:8である場合、被害者遺族には、
7000万円×0.8(加害者の過失割合分)=5600万円
が認められることになります。
このように、交通死亡事故事案のように、損害額が高額になる事案では、過失割合の少しの違いで、大きな(数百万円程度の)違いが生じることになります。
(2)過失割合
裁判所は、大量の交通事故による損害賠償請求事件を、適正かつ迅速に処理する必要があることから、過失割合について、交通事故の状況を詳細に類型化して、過失割合の基準を提言しています。
これは、具体的には、東京地裁民事交通訴訟研究会が作成した、過失割合の認定基準(「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)(別冊判例タイムズ38))になります。
2 東京地裁民事交通訴訟研究会が作成した、過失割合の認定基準における、事故類型
東京地裁民事交通訴訟研究会が作成した、過失割合の認定基準は、以下のように、交通事故の状況を類型化しています。
(1)歩行者と四輪車・単車との事故
(2)歩行者と自転車との事故
横断歩行者の事故 |
---|
対向又は同一方向進行歩行者の事故 |
---|
道路外や車道から歩道、路側帯に進入してきた歩行者の事故 |
---|
(3)四輪車同士の事故
(4)単車と四輪車との事故
(5)自転車と四輪車・単車との事故
(6)高速道路上の事故
合流地点における事故 |
---|
進路変更に伴う事故 |
---|
追突事故 |
---|
落下物による事故 |
---|
歩行者と自動車との事故 |
---|
(7)駐車場内の事故
3 交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準~歩行者と四輪車・単車との事故
歩行者と四輪車・単車との事故における、交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準は、以下のようになります。
(1)交通死亡事故の過失割合~ケース1~横断歩行者の事故~歩行者が青信号で横断、車が赤信号で直進
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道上の事故
- 信号機の設置されている横断歩道上の事故
- 歩行者と直進車との事故
- 横断中の信号変更なし
- 歩行者が青信号で横断開始、車が赤信号で進入
イ 過失割合の認定基準
(2)交通死亡事故の過失割合~ケース2~横断歩行者の事故~歩行者が赤信号で横断、車が青信号で直進
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道上の事故
- 信号機の設置されている横断歩道上の事故
- 歩行者と直進車との事故
- 横断中の信号変更なし
- 歩行者が赤信号で横断開始、車が青信号で進入
イ 過失割合の認定基準
(3)交通死亡事故の過失割合~ケース3~横断歩行者の事故~歩行者が青信号で横断、車が青信号で右左折
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道上の事故
- 信号機の設置されている横断歩道上の事故
- 歩行者と右左折車との事故
- 横断中の信号変更なし
- 歩行者が青信号で横断開始、車が青信号で進入
イ 過失割合の認定基準
(4)交通死亡事故の過失割合~ケース4~横断歩行者の事故~歩行者が横断歩道を横断
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道上の事故
- 信号機の設置されていない横断歩道上の事故
イ 過失割合の認定基準
(5)交通死亡事故の過失割合~ケース5~横断歩行者の事故~歩行者が交差点を横断
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道外における事故
- 横断歩道のない交差点又はその直近における事故
- 優先関係のない交差点における事故
イ 過失割合の認定基準
(6)交通死亡事故の過失割合~ケース6~横断歩行者の事故~歩行者が道路を横断
ア 事故類型
- 横断歩行者の事故
- 横断歩道外における事故
- 「『横断歩道の付近』や『横断歩道のない交差点又はその直近』」以外の場所における事故
イ 過失割合の認定基準
(7)交通死亡事故の過失割合~ケース7~進行歩行者の事故~歩行者が車道の側端を歩行
ア 事故類型
- 対向又は同一方向進行歩行者の事故
- 歩車道の区別のある道路における事故
- 車道における事故
- 車道通行が許されていない場合
- 車道側端の場合
イ 過失割合の認定基準
(8)交通死亡事故の過失割合~ケース8~路上横臥(おうが)者の事故
ア 事故類型
イ 過失割合の認定基準
4 交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準~四輪車同士の事故
四輪車同士の事故における、交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準は、以下のようになります。
(1)交通死亡事故の過失割合~ケース1~出合い頭事故~四輪車が青信号で直進、四輪車が赤信号で直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われている交差点における事故
- 青信号車と赤信号車との事故
イ 過失割合の認定基準
(2)交通死亡事故の過失割合~ケース2~出合い頭事故~四輪車がそれぞれ直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 同幅員の交差点の場合
- 左方車と右方車が同程度の速度
イ 過失割合の認定基準
(3)交通死亡事故の過失割合~ケース3~出合い頭事故~四輪車が優先道路を直進、四輪車が非優先道路を直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 一方が優先道路である場合
イ 過失割合の認定基準
(4)交通死亡事故の過失割合~ケース4~対向車同士の事故(センターオーバー)
ア 事故類型
イ 過失割合の認定基準
5 交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準~単車と四輪車との事故
単車と四輪車との事故における、交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準は、以下のようになります。
(1)交通死亡事故の過失割合~ケース1~出合い頭事故~単車・四輪車が青信号で直進、四輪車・単車が赤信号で直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われている交差点における事故
イ 過失割合の認定基準
(2)交通死亡事故の過失割合~ケース2~出合い頭事故~単車が直進、四輪車が直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 同幅員の交差点の場合
- 両車ともに同速度
イ 過失割合の認定基準
(3)交通死亡事故の過失割合~ケース3~出合い頭事故~単車・四輪車が優先道路を直進、四輪車・単車が非優先道路を直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 一方が優先道路である場合
イ 過失割合の認定基準
(4)交通死亡事故の過失割合~ケース4~右直事故~四輪車が青信号で右折、単車が青信号で直進
ア 事故類型
- 交差点における右折車と直進車との事故
- 同一道路を対向方向から進入した場合
- 信号機により交通整理の行われている交差点における事故
- 直進車・右折車ともに青信号で進入した場合
- 単車直進・四輪車右折
イ 過失割合の認定基準
(5)交通死亡事故の過失割合~ケース5~右直事故~四輪車が右折、単車が直進
ア 事故類型
- 交差点における右折車と直進車との事故
- 同一道路を対向方向から進入した場合
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 単車直進・四輪車右折
イ 過失割合の認定基準
(6)交通死亡事故の過失割合~ケース6~道路外出入車の事故~四輪車が路外から進入、単車が直進
ア 事故類型
- 道路外出入車と直進車との事故
- 路外車が道路に進入する場合
- 単車道路直進・四輪車路外
イ 過失割合の認定基準
(7)交通死亡事故の過失割合~ケース7~対向車同士の事故(センターオーバー)
ア 事故類型
イ 過失割合の認定基準
6 交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準~自転車と四輪車・単車との事故
自転車と四輪車・単車との事故における、交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準は、以下のようになります。
(1)交通死亡事故の過失割合~ケース1~出合い頭事故~自転車が直進、車が直進
ア 事故類型
- 交差点における直進車同士の出合い頭事故
- 信号機により交通整理の行われていない交差点における事故
- 同幅員の交差点の場合
イ 過失割合の認定基準
(2)交通死亡事故の過失割合~ケース2~横断自転車の事故~自転車が青信号で横断歩道等を横断、四輪車が赤信号で直進
ア 事故類型
- 歩行者用信号機が設置された横断歩道又は「歩行者・自転車専用」の表示のある信号機が設置された横断歩道若しくはこれに隣接して設けられている自転車横断帯により道路を横断する普通自転車と四輪車との事故
- 歩行者用信号規制対象自転車と直進四輪車との事故
- 歩行者用信号機等青信号・四輪車赤信号
- 自転車が、歩行者用信号機等青信号で横断開始、四輪車が、赤信号で進入
イ 過失割合の認定基準
(3)交通死亡事故の過失割合~ケース3~横断自転車の事故~自転車が赤信号で横断歩道等を横断、四輪車が青信号で直進
ア 事故類型
- 歩行者用信号機が設置された横断歩道又は「歩行者・自転車専用」の表示のある信号機が設置された横断歩道若しくはこれに隣接して設けられている自転車横断帯により道路を横断する普通自転車と四輪車との事故
- 歩行者用信号規制対象自転車と直進四輪車との事故
- 歩行者用信号機等赤信号・四輪車青信号
- 自転車が、歩行者用信号機等赤信号で横断開始、四輪車が、青信号で進入
イ 過失割合の認定基準
(4)交通死亡事故の過失割合~ケース4~横断自転車の事故~自転車が青信号で横断歩道等を横断、四輪車が青信号で右左折
ア 事故類型
- 歩行者用信号機が設置された横断歩道又は「歩行者・自転車専用」の表示のある信号機が設置された横断歩道若しくはこれに隣接して設けられている自転車横断帯により道路を横断する普通自転車と四輪車との事故
- 歩行者用信号規制対象自転車と青信号で右左折する四輪車との事故
- 普通自転車が青信号で横断を開始した場合
- 自転車が、歩行者用信号機等青信号で横断開始、四輪車が、青信号で進入
イ 過失割合の認定基準
7 交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準~高速道路上の事故
高速道路上の事故における、交通死亡事故で多い事故類型の、過失割合の認定基準は、以下のようになります。
(1)交通死亡事故の過失割合~ケース1~追突事故
ア 事故類型
イ 過失割合の認定基準
但し、以下の場合は、別の基準になります。
- 過失等により本線本道等に駐停車した自動車に対する追突事故
- 過失なく本線車道等に駐停車した自動車に対する追突事故
- 路肩等に駐停車中の自動車に対する追突事故
- 被追突車に道路交通法24条違反(理由のない急ブレーキ)がある場合
(2)交通死亡事故の過失割合~ケース2~歩行者が駐停車車両の近くに所在
ア 事故類型
- 歩行者と自動車との事故
- 駐停車車両の近傍の歩行者の事故
イ 過失割合の認定基準
8 過失割合の認定基準の修正要素の用語の意味
(1)幼児、児童、高齢者
幼児とは、6歳未満の者をいうとされています。
児童とは、6歳以上13歳未満の者をいうとされています。
高齢者とは、おおむね65歳以上の者をいうとされています。
(2)車両の著しい過失、重過失
ア 著しい過失
(ア)車両一般
車両一般の著しい過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
- 脇見運転等の著しい前方不注視
- 著しいハンドル・ブレーキ操作不適切
- 携帯電話等の無線通話装置を通話のため使用したり、画像を注視したりしながら運転すること
- おおむね時速15km以上30km未満の速度違反
- 酒気帯び運転
(イ)単車特有
単車特有の著しい過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
(ウ)自転車特有
自転車特有の著しい過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
- 二人乗り
- 無灯火
- 傘を差すなどしてされた片手運転
- 右側通行(他方から見て、左方から交差点に進入した場合)
- 並進
イ 重過失
(ア)車両一般
車両一般の重過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- おおむね時速30km以上の速度違反
- 過労、病気及び薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある場合
(イ)単車特有
単車特有の重過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
- 高速道路におけるヘルメット不着用
- ことさらに危険な体勢での単車の運転
(ウ)自転車特有
自転車特有の重過失の例としては、以下のようなものが挙げられるとされています。
関連記事