相続人であることの証明・戸籍謄本等(死亡事故)
1 交通事故の死亡事案で、「誰が」損害賠償請求できるか
(1)相続人
当法律(弁護士)事務所は、交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件を、専門的に取り扱っております。
そして、交通事故の損害賠償請求事件において、損害賠償請求できるのは、原則として、損害(被害)を受けた被害者になります。
但し、交通事故の死亡事案の場合、被害者は死亡しています。
そこで、損害賠償請求できるのは、被害者の相続人になります。
「誰が相続人となるか」につきましては、詳しくは、「相続人の範囲等(死亡事故)」をご覧ください。
交通事故の死亡事案における実務では、損害の大半が、被害者に発生し、これを相続人が相続する構成が採られています。
(2)近親者の固有の死亡慰謝料請求
また、交通事故の死亡事案の場合、被害者の近親者は、固有の死亡慰謝料を請求することができます。
「誰が固有の死亡慰謝料を請求できるか」につきましては、詳しくは、「近親者の固有の死亡慰謝料請求」をご覧ください。
2 相続人であることの証明
そして、交通事故の死亡事案の損害賠償請求事件の場合、損害賠償請求手続きを進めるにあたっては、相続人は、相続人であることを証明する必要があります。
これは、被害者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得して証明することになります。
以下、(1)まず、戸籍謄本等について説明し、(2)次に、どの範囲の戸籍謄本等を取得する必要があるか、ケース別に説明いたします。
3 戸籍謄本等
(1)戸籍
ア
戸籍(こせき)制度は、国民の出生関係を登録する制度です。
戸籍は、原則として、一夫婦とこれと氏を同じくする子ごとに編製されています。
戸籍の最初に記載される者を、筆頭者といい、夫婦のうち、氏を称する方がなり、夫がなることが多いです。
戸籍がある場所を、本籍といいます。
イ
戸籍に記載されている者が、死亡、婚姻した場合、戸籍から除かれます。そして、婚姻した場合、新たな戸籍が編製されます。
また、本籍を他に移すことができ、これを、転籍といいます。この場合、転籍前の戸籍は、除籍となり、新たな戸籍が編製されます。
戸籍は、例えば、現在の戸籍から、過去にさかのぼることできます。
戸籍には、国民の出生から死亡までの履歴が記録されますので、相続の手続きの際は、取るべき手順が明確であるといえます。
(2)戸籍謄本
戸籍謄本(こせきとうほん)は、戸籍の記載事項の全部を転写したものです。
一部を転写したものは、戸籍抄本(こせきしょうほん)になります。
また、電算化(コンピュータ化)された戸籍謄本を、戸籍全部事項証明書といいます。
電算化(コンピュータ化)された戸籍抄本を、戸籍個人事項証明書といいます。
(3)除籍謄本
除籍謄本(じょせきとうほん)は、除籍された戸籍の記載事項の全部を転写したものです。
戸籍が除籍される場合は、(1)戸籍に記載されている者の全てが、死亡、婚姻等により、戸籍から除かれるか、(2)本籍を他に移した場合(転籍した場合)になります。
(4)改製原戸籍謄本
改製原戸籍謄本(かいせいはらこせきとうほん)は、改製原戸籍の記載事項の全部を転写したものです。
改製原戸籍は、法令による戸籍の改製が行われた場合の、改製前の古い様式の戸籍になります。
4 どの範囲の戸籍謄本等を取得する必要があるか
(1)ケース1 相続人が配偶者と子の場合
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、妻のB、子のCの場合を考えます。
この場合、BとCは、自らが相続人であることを証明するためには、(1)Bは、Aの妻であること、(2)Cは、Aの子であること、(3)Cの他に、Aには、子がいないことを証明する必要があります。
そのためには、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(2)ケース2 相続人が父母の場合
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、父のB、母のCの場合を考えます。
この場合、BとCは、自らが相続人であることを証明するためには、(1)BとCは、Aの父母であること、(2)Aには、配偶者がいないこと、(3)Aには、子がいないことを証明する必要があります。
そのためには、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(3)ケース3 相続人が兄弟姉妹の場合
例えば、被害者Aが交通事故により死亡し、相続人が、兄のBの場合を考えます。
この場合、Bは、自らが相続人であることを証明するためには、(1)Bは、Aの兄であること、(2)Aには、配偶者がいないこと、(3)Aには、子がいないこと、(4)Aの父母は、既に死亡していること、(5)Aの祖父母は、既に死亡していること、(6)Bの他に、Aには、兄弟姉妹がいないことを証明する必要があります。
(1)〜(3)は、Aの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(4)と(5)は、その旨の記載がある戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
(6)は、父の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等と、母の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得すれば、証明することができます。
なお、戸籍謄本等で重なるものは、重ねて取得する必要はありません。
5 参照条文
〇戸籍法6条
「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし、日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻をした者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。」
〇戸籍法9条
「戸籍は、その筆頭に記載した者の氏名及び本籍でこれを表示する。その者が戸籍から除かれた後も、同様である。」
〇戸籍法16条
「婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
② 前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。
③ 日本人と外国人との婚姻の届出があつたときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。」